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白鳥と丹頂

 写真・・・僕の興味は最初、写真ではなくカメラという精密機械に向いていました。父の持っていたLeicaという小さな機械への憧れ、と言い換えても良いかも知れません。だから、カメラこそ立派なものを持ったものの、本腰を入れて作品レベルの写真を撮る事もなく少年〜学生時代を過ごしました。だから精々が家族写真や、学校行事を撮る位のアマ「カメラマン」とさえ言えないような存在でした。学生時代はそのエネルギーの殆どをギターに振り向けていましたから(笑)。
 そんな僕を初めて「本格的に写真を撮る」気にさせた一枚の写真。
 僕が社会人になり、且つ父を亡くした年の初冬の事でした。それが掲載された写真雑誌は不覚にももう僕の手元には残っていないけれど・・・。
 それは、黒い背景に飛翔する白鳥を意図的にスローシャッターで捉えた写真でした。空を飛んでいるのに背景が黒い。暗いのではなく黒い。これはどうして? そして飛翔する白鳥はこんなにも美しいものなのか。雑誌には或る写真学生の手による作品で、その舞台は「古徳沼」という所だと、それ以上の事は載っていませんでした。
白 鳥 丹 頂
 「古徳沼」ってどこだろう? そこへ行ってみたい! 当時まだWindowsもこの世に無かった頃。パソコンやネット環境も無いし現代みたいに直ちにググるって事もできません。僕はとにかく近くの県から地図をしらみ潰しに眺める、という作業に出ました。少なくとも僕の出身県である千葉の中では聞いた事のない名称でした。白鳥→冬の渡り鳥。その位の知識はありました。でもその写真には雪が写っていない。きっと関東圏内だろうか? という、何とも頼りない確信の下に、地図を眺める日々は続きました。
 車に積んであった所謂「関東道路地図」では用が足らず、やがて「茨城県」で一冊という縮尺の大きな地図の中に、やっと古徳沼を見つけたのは一ヵ月後でした。でもそこで間違い無いという証拠なんてありません。その翌日、NikonF4sと、当時持っていた一番大きな望遠レンズ・・・Tamronの300mmを手に、車を常磐自動車道に駆らせたのは、除夜の鐘が鳴り終わった頃でした。「何も元旦なんかに・・・」という親に、「毎年御節と雑煮は昼の12時廻ってからでしょ、それまでには帰るから」と告げて。
 僕の見つけた場所は、間違っていませんでした。夜明けと共に周囲が明るくなって来ると、僕の目の前には200羽近い白鳥と、巨大な超望遠レンズを構えた大勢のカメラマンがいました。そして、あの写真の背景が黒かった理由・・・その謎はすぐさま解けました。
 場所を探し当てた喜びと、初めて生で見るその光景が、僕を満たしました。そして、カメラは写真を撮る道具。単なる機械ではないと、改めて僕は認識していました。僕の中での「カメラ」の位置付けが180度変わった日でした。